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法律系受験生を悩ませる憲法54条

憲法54条には、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙 を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない…とある。
この40、30という、法律系受験生を悩ませる日数はいったい何なのか?


憲法第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙 を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。 ② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。 但し、内閣は、国に緊急の 必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。


 憲法54条2項は、衆院が解散された後に緊急の必要が生じたとき、内閣が参院の緊急集会を求め、臨時の対応をとるよう要請することができると定めている。
同じ54条の1項は、衆院の解散後、40日以内に総選挙を行うこと、そして総選挙後30日以内に新たな国会を召集することを求めている。だとすると、参院の緊急集会で対応することができるのは、せいぜい40日プラス30日の70日以内に限られる。国会会期は150日間なので、会期半分の75日以下…ということに意味がある。

 大規模な自然災害などのため、一部の地域で選挙を長期にわたって実施できないことも考えられ、70日を超えて非常時に対応しなければならないこともあり得る。
 そうした場合は参院の緊急集会ではなく、解散によって失職した衆院議員を復活させて任期を延長し、衆参両院で非常時に対応すべきという主張もある。

 この問題については、なぜ憲法は40日と30日という日数を限って、総選挙と新国会の召集を行うよう求めているのかを考える必要がある。
 それは、衆院を解散した後、何かと理由を構えて総選挙を実施しようとせず、さらに総選挙は実施したが、結果が自分たちにとって思わしくないからという事情で新国会の召集を先延ばしするなど、現在の民意を反映しない従前の政権が、そのまま居座り続けることのないようにとの配慮からである。同様の条文は世界各国の憲法に見られる。
権力の座は麻薬で、抗しがたい魔力があるという。故吉田茂総理ですら半狂乱のように政権を追われている。その昔、細川連立内閣が成立し、自民党政権が野に追われたとき、政権交代直前に米価を上げて「自民党は農家の味方アピール」をしている。

衆院の解散後に大規模な自然災害が発生する可能性はある。そうした場合、必ず40日以内に総選挙を実施しなければならないわけではない。憲法といえども不可能なことを要求しはしない。投票を繰り延べるとか、参議院の緊急集会がとる臨時の応急措置で選挙の実施自体を延期することは、当然あり得る。
 そうした措置をとると、憲法の求める40日という期限を越えているからという理由で選挙無効訴訟を提起する頭の固い人もいるかもしれないが、最高裁がそうした選挙を無効にすることはあり得ないだろう。
 何が何でも選挙は40日以内でなければならないという理由で選挙を無効にすると、やり直しの再選挙も同じ理由で無効になり、有効な選挙は未来永劫、実施できなくなってしまう。そんな簡単な理屈が分からない裁判官はいないはずである。
 ▽根幹揺るがす立法も
 参院の緊急集会がとることができるのは、緊急の必要に応じた臨時の措置だけで、次の国会が召集された際に、衆院の同意が得られなければ、その措置は効力を失う(憲法54条3項)。
 ところが、衆院議員の任期を延長してしまうと、そこには現在の民意を反映しない異形のものとはいえ、国会が存在することになり、通常の法律や予算が成立する。悪くすると、従前の衆院とそれに支えられた政権が居座り続けたまま、緊急事態が恒久化し、非常時に名を借りて法秩序の根幹を揺るがす立法が次々と行われることにもなりかねない。
前述の自民党の「コメ上げろ!」への配慮は、ギリギリスレスレを狙った法案だった。令和の今にこれをやったらいったいどうなるかわからない。

やや話が逸れたが、憲法統治の分野は法律受験生が勉強する範囲を超えて奥が深すぎる。


※識者コラム「現論」 本末転倒、危険はらむ 緊急事態対応の改憲提案 長谷部恭男氏の記事から引用しました。